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解離性同一性障害−経過と治療 第四段階〜第六段階

第4段階:心的外傷の消化
原因となる体験に接近し、解決しようとする段階です。
病歴収集を行っていく過程で、心的外傷の全貌は少しずつ明らかになっていきます。ある外傷的出来事の記憶が強い感情を伴って意識に浮上し、その心的外傷を再体験する事があります。これを除反応と言います。

外傷的出来事を連想させるような外部からの刺激(テレビや人の会話など)によって、除反応が誘発される事もあります。除反応を治療的なものにする為には、心的外傷が何であったかを理解し、それに纏わる感情を表現する事が大切です。
心的外傷を触れる前に、体験をできる限り時間の流れに沿って整理します。交代人格間で記憶を分けて持っている事があるからです。

混沌とした外傷的体験を秩序化した後、その内容について十分に面接で取り上げます。そうする事で患者はその時の感情はなんだったのか、どう言う意味があったのかと分かります。
しかし、真実を知る事は辛い事でもあります。そして外傷以前の自分が本当に取り戻せない事を知ります。その喪失感情を受け入れる為には、悲嘆し、喪失感を体験する事が必要でもあるのです。その過程を経て、心的外傷は少しずつより大きな生活史の一部となっていきます。
心的外傷の消化とはこのような過程で行われます。

第5段階:統合-解消への動き
交代人格を通して快復した記憶の材料を経験していく過程です。
また、交代人格間のコミュニケーションが増し、多くの内部葛藤が減少、解決されていきます。交代人格たちは個別的であったそれぞれの性格の違いをぼかしてみせるようになります。同一性の混乱(わたしはAとBの両方だと思う、など)を体験する事もあります。

通常、心的外傷の塊はひとつだけではありません。除反応を繰り返し、大きな外傷体験をひとつひとつ処理していく事で、記憶の空白をなくしていきます。
除反応後、迫害人格や問題行動を起こす人格が不活発になる事もあります。交代人格間の葛藤も少なくなります。

患者の視点は生活自然体に一貫性を見いだそうとします。マッピングでは、各交代人格間の共有部分が増えていきます。健忘が少なくなり、意識を共有することが多くなっていきます。そのうちに、人格間の解離障壁が取り払われて、自然な融合を起こす人格も出てきます。

この多重人格システムから、単一人格システムへ移行は、ある種の不安定さを伴います。精神内の大変動であるとともに、回復する事への寂しさ、不安があるからです。
今まで悩みの種だった症状は軽快していき、自分がよくなってきている事を自覚します。それに伴い、現実に直面していく事、将来への不安などもでてきます。
「病者としての自分への別れ」です。

第6段階:統合-解消
解消とは、それぞれの同一性は残しながらも、交代人格間の解離障壁がなくなって、円滑に人格システムが機能する状態です。しかし、それぞれの交代人格は分離したい時には何時でも分離できる状態でもあります。
統合とは、二つ以上の同一性をひとつにあわせて、単一体にする事で、融合とも云われます。

統合は、まず、統合したいと言う交代人格の意思を確認する事から始まります。交代人格は自分と云う存在が消滅するのではないかとの不安も抱きます。ここで、統合によって、決してどちらかの交代人格が消えてなくなると云う事ではないと云う事を理解して貰います。
また、統合は永遠に続くのではなく、ストレスがかかれば再分離する可能性もあります。

人格の統合は続けられていきますが、最終的に患者の人格システムが単一か、いくつかの交代人格が共存するシステムと取るかは、患者自身が選びます。


基本的な説明
・診断基準の定義
・交代人格とは
・原因・虐待との関連
・主な症状
経過説明と治療方法
・経過と治療
・経過と治療 第一〜第三段階
・経過と治療 第四〜第六段階
・経過と治療 第七〜第九段階
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