物語的な詩

少年とナイフ

気が付いたら真っ暗な部屋ん中に立ってた。

何で俺はこんなとこで突っ立ってんだと思って電気をつけたら、
裸の、辛うじて女とわかる躯が血溜まりの中に落ちていた。
躯中傷だらけで色々なところが抉られている。

思わず叫んで後ずさったら血で滑って派手にこけた。


やっとこれが現実にあることなんだって気付いた途端、
頭の中がぐるぐる回って吐き気がした。

なんだ?
なんでこんなことになってんだよ?!

俺の質問に答えてくれる奴なんか居ない。
暫くそうやって呆けてたら、急に誰かの劈くような叫び声が聞こえた。
と思ったら、頭にこの女が逃げ惑う場面が飛び込んでくる。

段々血にまみれていく女の身体。
ナイフが触る度に増える傷。

何度も何度もリプレイされる場面と悲鳴。
耳を塞いで目を瞑っても、お構い無しに繰り返される。

それはマトモな頭で見続けられるもんじゃなかった。

止まれ!やめろおぉ!!

思わず近くにあったナイフを引っつかんで自分の腕に突き刺した。


その瞬間、頭の中にある記憶がばっと開ける。
俺が見たもの。俺が聞いたもの。俺がしたこと。

そうだ。
これは全部俺が自分でやったんだ・・・。





夕方、部屋に入ったら女が俺のベッドに座っていた。
知らない奴だったけどそう云う事は結構あったから、
驚きはしたけどあんまり警戒したりはしなかった。


ねえ、そんなとこに立ってないで一緒にお話しましょうよ。

俺が 誰だろ とかぼんやり考えてたら女がそう話し掛けてきた。
はたと我に返って、何でここに居るのか聞いてみたら、
何だかんだ言って上手い具合にはぐらかされた。

胡散臭いと思いつつも女の隣に腰掛けると、
そいつはいきなり俺を押し倒して馬乗りになってきた。

そんなことをいきなりされたのは初めてだったから
無様にうろたえて、女を思い切り突き飛ばした・・・筈だった。

実際には俺はほんの少しも動けていなかった。

女の目を見た途端金縛りにでも掛かったようになって、
思考すらしっかり働かなくなってしまった。

女が何かを呟いて、俺に・・・キスをした。
口ん中に何かが流し込まれてそれを飲み込んだ瞬間、
俺の中で何かが弾け飛んだ気がした。


”それ”を感じた俺の身体は勝手に動き、
鞄に入っていたナイフを取り出すと女に向かって振り下ろした。
向かってくるナイフを見て女は驚愕の表情を浮かべていたが、
きっと俺も同じ顔だっただろう。

失敗だわ!

女がそう叫んだのを遠くで聞いたような気がした。

そっからは、楽に想像が付く通り。
俺の手が勝手に女を切り刻んでいったんだ。



でも、それだけじゃ終わらなかった。
何時からか俺は女を傷つけることに快感を覚えていた。
斬り付ける度に背筋を這うゾクリとした感触。
女の口から出る叫びを聞く度に痙攣する心臓。
それを味わおうと俺は女を追いかける。

切る。
逃げる。
追いかける。

繰り返し繰り返し。

その内俺は自分の高まりをどうにも出来なくなって、
女を犯してそれをぶつけた。

何度かそれを繰り返す内に、女は動かなくなっていた。
それでも俺は刺し続けた。
刺すところが無くなると内臓を抉り出した。


何度も何度も、繰り返し。





全てを思い出した俺にまた悲鳴と場面が襲ってくる。
同時に、とてつもない恐怖が胸を締め上げた。

なんで俺はあんな風になったんだ。
あの女の所為だとしても、こんな・・・。


今度は恐怖と混乱と、何か変な感情や衝動が俺の腕を動かした。

ナイフを手に持ち一気に自分の胸を掻っ捌く。
傷口から血が噴き出して、視界を覆った。
血に構わずに、何度も何度も突き立てては引いた。

その内手が動かせなくなって、俺の身体はフワリと前に傾く。
目の前にナイフが落ちた。



暗くなっていく視界の中、それだけが赤く輝いていた。
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