物語的な詩

喉の潰れた彼

咽が潰れた猫が居ました。
今まで誰とも話した事がありませんでしたが、
彼はその事をどうとも思っていませんでした。
可愛げの無い猫だと罵られようと一向に気にしませんでした。

ある日彼は餌を狩りに出かけた先で怪我をして、
そこから動けなくなってしまいました。

痛いけれど、苦しいけれど、彼は鳴けないので助けも呼べません。
全てを諦めていました。

所が、いつぐらいかに、
朦朧としている意識の中、誰かに抱えられるのを感じました。

声の感じからすると、若い男性。

どうして自分が見付かったのか分からないけれど、
彼はその男の人に助けてもらえたのです。

それから彼は、その男の人のお世話になって暮らしました。
鳴けない声で、必死にお礼を言いました。
生まれて初めて、自分から言葉を発しようとし、
自分の心が届くように言いました。

男の人は、彼の頭をポンと一つ撫でただけで、
その声が、思いが届いたのかはとても微妙でしたが、

それで彼は満足でした。
inserted by FC2 system