物語的な詩

猫とラジオ

年老いた猫が居た。
彼は一人の人間と暮らしていた。

人間はラジオで喋る仕事をしていて、
ラジオから流れてくる人間の声を聞きながら
猫は人間が帰ってくるのを毎日待っていた。

人間は必ず帰ってきて猫にただいまを言うと
ドライフードと居心地の良い寝床を差し出した。
猫はお礼にのどをグルグル鳴らして
何時もそれに甘えた。
 

その日も人間は仕事に出かけたが、
ラジオから聞こえてきた声は別の人間のものだった。

その声は突然の不幸がどうのお悔やみがどうのと言っていたが
猫は言葉が分からなかったので聞き流していた。

その日、人間は帰ってこなかった。


年老いた猫は待っていた。
何時まで経っても人間は帰ってこなかったが、
それでも待ち続けた。


暫くの時間が経ち、猫は眠りに落ちた。
夢の中では人間が静かに微笑んでいた。

人間は猫に居心地の良い寝床を差し出し、
猫はのどをグルグル鳴らして人間に甘えた。
待ち続けた日々は終わった。




年老いた猫が居た。
彼は一人の人間と暮らしていた。
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