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変質者と記憶の欠落

小学校低学年頃の事だった気がする。

私は妹を連れて児童館へ来ていた。母親なのか確かではないが、女の人が迎えに来るのを待っていた。私は自転車置き場のある花壇に腰掛け、妹は裏側にある砂場で遊んでいた。

唐突に、男の人が馴れ馴れしく話しかけてきた。内気だった私は無視する事も出来ず、適当に挨拶をする。男の人はそのまま、花壇の私のすぐ横に腰掛けてきた。この時点で少し恐怖心が出ていた。知らない人に急接近される事がなかったから。

初め、男の人は私の手を執拗に触っていた。その手が段々移動してくる。自転車置き場は道路に面していたので、私は通り過ぎていく女の人に助けを求めたかったけれど、怖くて何も言う事が出来ず、その女の人は普通に通り過ぎて行ってしまった。

その時私が考えていた事は、裏手で遊んでいる妹の存在に気付かせてはいけない、と言う事だった。妹にまでこの男の人が「悪さ」をする事は心の底から嫌だった。

男の人の手は移動する。腰、足、太もも…そしてスカートへ触れた。

次の瞬間、まるでスイッチが切り替わったかのように景色が変わった。私は児童館から少し歩いた所にある小学校の南門辺りを、妹の手を引いて必死に走っていた。急に場面が変わった事よりも、あの男の人に追いかけられないかと言う恐怖が勝っていた。

今現在、私はあの時の事をたまに考え、欠落している記憶の部分を必死に思い出そうとするのだけど、どうしても思い出せない。いや、「思い出す」ではなく、記憶自体が「ない」ので思い出せない。あの男の人にどこまで触られたのか、どうやって裏手に居た妹を連れて逃げたのか、全く分からない。

記憶が戻る時は、来るのだろうか。
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